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愛しては、ならない
第29章 虚しい演技を止める時
「――剛さん、一度お家に帰ってから、行く?」
心ここに在らずなまま、俺はエレベーターに乗り、降りて、ホテルの出口の自動ドアの前で立ち尽くしていた。
菊野に声を掛けられ俺は曖昧に笑うが、何か彼女が不安そうに見えて、その肩をそっと抱いた。
彼女も、揺れ動いているのだろうか。
(揺れればいい……
迷って悩んで、俺の事だけで胸の中を埋めつくして……)
彼女の肩を抱いたまま、俺は外へ一歩踏み出した。
ドアがシュンと音を立てて開き、途端に強い風が彼女の髪を靡かせて、彼女は反射的に目を瞑る。
その瞬間を逃さずに、唇を重ねた。