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愛しては、ならない
第30章 彼しか見えない


「ふう……」


深く、長い溜め息を吐いて、私は家のドアを開ける。


「ただいま……祐ちゃん……お母さん?」


玄関には、既に二人の靴は無かった。

祐樹は学校へ、花野は家へ戻ったのだろう。

ピアノ教室もあるし、何より父を長い間一人にするのは心配だろうし。

リビングへ入ると、テーブルの上には手作りのシフォンケーキがラップにくるまれて、その上にメモ書きがあった。


――お帰りなさい。

昨日はリフレッシュ出来たかしら?

もう少し手伝ってあげたいのだけれど、今日は一旦帰ります。

祐樹と一緒に作ったケーキよ。

あの子が殆ど全部やったから、誉めてあげなさいね。

花野――
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