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愛しては、ならない
第37章 愛憎②
駅前にそびえ立つ豪奢な高層マンションのエントランスの階段を上がり、ふと後ろを振り返る。
ベビーカーを押す若い母親、スマホを弄りながら友達同士で楽しそうにはしゃぐ女子高生、ビジネスバッグを手に急ぐサラリーマン。
誰かが私を見ているのではないか、と怖くなり、辺りを見回すが街を行く人達は皆他人だった。
嫌な音で心臓が鳴っている。
家を出た時から始まり、今なお止む気配がない。
(――落ち着かなくちゃ……毅然としなきゃ……)
深呼吸して、インターホンで部屋番号を押す。
二回コールが鳴ってから、応答があった。
『はい』
『菊野です』
『いらっしゃいませ、待ってましたよ』
自動ドアが開いて中へ入り、エレベーターに乗り込み最上階で降りた。
何歩も行かない距離に、洒落たローマ字で書かれた表札の部屋のドアがある。
私は一瞬躊躇ったが、溜め息を吐いてベルを鳴らした。