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呟きたい
第29章 バレンタインデーは泣かない
「お久しぶりですね」
「そ、そうだね」
「姉さんも」
「相変わらずでなによりよ」
「これはどっちが作ったんですか」
「えっと……」
「ブラウニーが麗奈でマカロンがあたしよ」
「そ、そう」
「二人とも上手いんですね」
「別に」
「道化のが上手だから……」
「なに弱気になってんのよ、アホ」
「なによっ!」
「なにがよ。いいじゃない。チョコ一つくらい友達にだってあげるでしょ」
「むうっ、て……ハルさんもう食べてる!」
「ああ。ダメでしたか?」
「いいわよ」
「いい、ですけど」
「どちらも美味しいですよ」
「なあんか、あの景色面白いわね」
「だな……あんなハルの笑顔は久しぶりだ」
「いつものあの死ねばいいのにスマイルしか見たことないものね」
「お前は色々見たんじゃないか? その少女を通して」
「……ふ。あの子が私に見せた顔は全部マキに向けたものよ?」
「……」
「ん? あら。なにこれ」
「一か月後もお前が会いに来るとは限らないからな」
「ふふ。花束なんてあなたらしくないわね」
「黙って受け取ってくれないか……」
「そうね。お礼は言わないけど」
「いいさ。お前に受け取ってもらえたらそれで」
「あなた変わった?」
「変わったのは世界の方じゃないか?」
「っく……ふふふ。そうねえ。こうして集まれたんだものね」
「ああーっ! ハルが美味しそうなの食べてるっ」
「蕗も食べる?」
「ボク姉さんのがあるもん」
「いいのよ。あっちも食べたって」
「姉さんのだけで十分……だったり」
「もうっ。蕗!」
「えへへ」
「こんな景色……見られるなんてね。バレンタインに救われるなんて考えたこともなかった……ああ、いい香りね。でもどうして? 花なんて似合わないわ」
「あの朝。お前が死ぬ前に云ったんだ」
「なんて?」
「本当に天国には花園あるんでしょうねって」
「あら。云った? そんなこと」
「忘れたふりをするな。お前は好きだったな。こういう黄色とか赤い花が」
「そうねえ……ねえ、あったかしら。花園」
「今から見に行くか」
「……それもいいわね」