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月下の契り~想夫恋を聞かせて~
第2章 酔芙蓉の簪(かんざし)
 酔芙蓉の簪(かんざし)

 思わず小さな欠伸を洩らしそうになり、薫子(きょうこ)は片手で口許を押さえた。ともすれば緩みそうになる気持ちを引き締めようと、両手のひらで頬を軽く叩いてみる。
 と、眼前を薄紅色の小さな花びらがひらひらと漂い流れていった。次いで、やわらかな春の風が頬をそっと撫でて通りすぎてゆく。地面に照りつける陽光はうららかで、どこまでも気持ちの良い春の午後だった。
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