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月下の契り~想夫恋を聞かせて~
第24章 番外編第二話【水仙の少女(おとめ)】
―いつか必ず逢いにくる。そのときは何が欲しい?
彼の問いかけに女は応えた。
―腕一杯の水仙の花が欲しいな。
だが、その約束は永遠に果たされることはなかった。
若い天皇が事実上の「添伏」に選んだのは貴族の姫君でも後宮の美しい女官でもなく、
市井の色町で懸命に生きようしとした遊女だった―。
朱雀天皇が16歳、まだ薫子と出逢う前の物語り。
****************************
その時、彼の女の身体を抱いた手にポトリと涙の雫が落ちた。
彼はハッとした。彼女は泣いている―。刹那、彼の身体の中で激情と女への愛しさが湧いた。
彼は女の身体を強く抱きしめ、その黒髪に顎を埋めた。
―もう一度、抱かせてくれ。
頷いた女の身体を再び褥に押し倒す寸前、彼は最後に訊ねた。
―そなたの名前は?
―ゆき。
雪深い鄙の里に群れ咲く水仙、その水仙を優しく抱く雪のように汚れのない女の白い肌。その肌に溺れながら、彼は女の名を幾度もうわごとのように熱く呟いた。
彼の問いかけに女は応えた。
―腕一杯の水仙の花が欲しいな。
だが、その約束は永遠に果たされることはなかった。
若い天皇が事実上の「添伏」に選んだのは貴族の姫君でも後宮の美しい女官でもなく、
市井の色町で懸命に生きようしとした遊女だった―。
朱雀天皇が16歳、まだ薫子と出逢う前の物語り。
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その時、彼の女の身体を抱いた手にポトリと涙の雫が落ちた。
彼はハッとした。彼女は泣いている―。刹那、彼の身体の中で激情と女への愛しさが湧いた。
彼は女の身体を強く抱きしめ、その黒髪に顎を埋めた。
―もう一度、抱かせてくれ。
頷いた女の身体を再び褥に押し倒す寸前、彼は最後に訊ねた。
―そなたの名前は?
―ゆき。
雪深い鄙の里に群れ咲く水仙、その水仙を優しく抱く雪のように汚れのない女の白い肌。その肌に溺れながら、彼は女の名を幾度もうわごとのように熱く呟いた。