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月下の契り~想夫恋を聞かせて~
第9章 小平太という男
 逃げ足だけは速い男は見る間に人混みに紛れて見えなくなる。
「口ほどにもねえヤツだ。あれで悪党を気取ってやがるんだから、笑いもできねえや」
 小平太は肩を竦め、薫子に向き直った。
「とんだ災難だったな」
 智次に見せた顔や声とは想像もできないほど穏やかな、春の陽溜まりのような笑顔だ。
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