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私は犬
第29章 諦めろ*
「いらねぇの?せっかく、買ってやったのに。」

その買ったは、横取りしたと同義語なのっ。イライラして、握りしめた拳に、ぎゅっと力が入った。

「本当は欲しいだろ?我慢すんなよ。な?」

な?じゃない。要らない…。欲しくない…。ない…。

「飯食って風呂入ってくる。これ、やるよ。」

私の手に、魅惑のアーモンドキャラメルを握らせて、有史さんは居なくなった。

食べちゃ駄目だ。食べちゃったら駄目だ。食べちゃうのは駄目だ…。

蛇の姿をした悪魔にそそのかされて、禁断の果実を口にしたイブも、こんな気持ちだったのかも知れない…。食べたら追放される…。だからこのまま寝る。私は負けないっ。

渾身の力を振り絞って、ベッドに潜りこんだ。

うとうとしていると、突然、口に何かを突っ込まれて目が覚めた。ちょっ!!何すんのよっ!!!

「何を突っ込むのよっ。勝手な事しないでっ!」

「せっかく我慢してたのに、残念だったな。ほら、観念して食っちまえ。」

「………。」

甘くて…美味しい…。

「……カロリーが気になるなら、消費手伝ってやる。」

有史さんの頭が、掛け布団の中へ消えた……。もそもそと、脚をくすぐるように手が這いまわる……。
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