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私は犬
第32章 我慢の限界*
「有史さんは、お仕事好きなのね…。」

「好きつうかアレだ。………お前、仕事で何かあった?アレだ…嫁にでも行ってだな…その…。もっと…」

アレとかソレじゃ、意味分かんないってば。もう酔ったの?顔赤いわよ…。それに、

「私はお嫁に行かないの。結婚なんて絶対にしないの。」

そう。私はお嫁さんにはならないの。正確に云うと、なれないの…。お母さまもそう仰った。『こんな身体にされて…。お嫁の貰い手なんて無い。』って、何かある度に、泣きながらそう仰った。

こんな身体がどんな身体かなんて分からないけれど、お股を弄りすぎた身体だから、お嫁に行けないんだと思う。

ふと目をやると、有史さんは、困った犬みたいな顔で、じっと私の顔を見つめていた。そんな顔してると、本当に犬になっちゃうわよ…。

「なぁ…。その、嫁に行かない理由ってなんだ?」

これは言えないわ。お母さまとの約束を違える訳にはいかない。

「特に理由なんて無いわ。でも、ずっと昔、子供の頃にそう決めたの。」

「お前、人生に夢とか無いのか?」

子供の頃はそれなりにあったと思う。でも、お父さまとお母さまが亡くなってからそういう物は無くなった。1人で生きていく強さを身に付ける事が、何より大切だったから。お母さまも、そう仰ったから。
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