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私は犬
第32章 我慢の限界*
お洋服もそう。お父さまは、私に豪華で華やかなお洋服を着せたがったけれど、お母さまは絶対にそれを許さなかった。

『いいこと?華美は下品なの。大切な事だから、よく覚えておおきなさいね。』

お母さまは、事あるごとに私の目をじっと見つめてそう仰った。1度、お父さまが、セーブルの長いコートを誂えて私に着せた時も、

お母さまは、とてもお怒りになって、外商さんを呼びつけて、『お金は戻さなくて良いから、持帰りなさい。2度とそういう品を娘に用意しないで。』と、それを返してしまった。

お母さまも、あまり華やかな格好はなさらなかったっけ。冬のコートに、ファーがついていても首と手首に少しだけだった。あのフワフワ、とっても気持ち良かった…。何の毛皮だったのかしら?

そういえば、パリでクリスマス時期にクルミ割り人形を観た時、私に白い兎のファーの付いたコートをご用意下さったわ。『子供の毛皮には兎が相応しいのよ。』と言って着せて下さったっけ…。あの水色のコート、お揃いの小さなマフもついてたわ。

アイマスクをして、さっさと寝てしまった剛ちゃんの隣で、遠い昔の事を思い出しながら時間を潰した。

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