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私は犬
第2章 プロローグ
施錠された玄関扉の前にペタンと座り込みながら彼を待つ。最近ではこうして待つ時間すら苦にならなくなった。


やがて、扉の向こうの通路から小さな機械音が聞こえてきた。あれはエレベーターの昇降音。


やっと彼が帰ってきたのだと、そう思うと嬉しくて胸がいっぱいになる。本物の尻尾が生えていたら、ブンブンと動いているはず。ふと、そんな事を考えてちょっぴり可笑しくなった


そして、施錠された鍵を家の中からじっと見つめながら、彼が扉を開ける瞬間を待ちわびる


小さかった足音がだんだん大きくなって、「ピッ」と電子音がして、鍵がカチリと動いて、ノブが下がるのをドキドキしながら見守った


すぐに扉が静かに開いて、優しい顔が姿をみせる


「お帰りなさい」そう口にしたいけれど、喋っちゃいけないの。彼がそう決めたから


嬉しい気持ちを隠せないままに彼を見上げると


「ただいま。いい子にしてたか?」と言いながら、優しく頭を三回撫でてくれた


1日の中でこの瞬間が一番好き。


「はい」と口にする代わりに、コクりと小さく頷いてみせると


愛しい人は「そうか」と満足そうに言って、寝室へと去って行った
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