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私は犬
第33章 さよなら
《ちゃんと泣けよ》

泣く事って大切なの?泣けば、悲しんでいる証拠になるの?泣かないことは…薄情なの?

みんな、泣いている人がいると涙を止めようとするわ。それって、泣かれると周りの人が、困るからなんじゃないの?

周りの人を困らせないように、皆隠れて泣くじゃないの。泣く事を恥ずかしいと言う人さえいる。あの剛ちゃんだって、泣いた事を内緒にしたがるのよ…。

考える程に混乱してきた。何がなんだか、ちっとも分からない。

エンデのお婆ちゃん、涙を流さなくてごめんなさい……。

私は薄情なのかもしれない…。有史さんは、私のそんな薄情さを咎めただけなのかもしれない…。

「真子さん、お時間です。ホテルで皆さんお待ちですよ。」

あー。何だっけ?

「例のクリニックの療養食の再現の試食会です。何の為に私達までお昼ご飯抜いたんですか。行きますよ。」

そうだった…。考え事していたから、お腹空いていたの忘れてた。

秘密のエレベーターを降りると、既に車が迎えにきていて野村さんがドアを開けて下さった。

目が合ったから、今朝のお土産の件を尋ねたかったけれど、中田さんや春木さんも一緒だから叶わない。

もうすぐ8月が来る。外は刺すような日差しが降り注いでいる。

空気はこんなに重たくて、外気もこんなに暑いのに、スイスみたいに白眼まで日焼けする事がないのが不思議で仕方ない。日本の夏は、サングラスが無くても大丈夫みたい。
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