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陽炎ーカゲロウー
第2章 初夜
市九郎に手を引かれるまま、赤猫は歩いた。

アジトは小さな集落のようになっていて、幾つもの簡素な家が立ち並ぶ。

その、一番奥。

それ程大きくない家の前で、市九郎は立ち止まり、

ガラリと戸を開け、中に入った。

真っ暗な家の中。

市九郎は赤猫を土間に立たせたまま、板間に上がると提灯から部屋の行灯に火を移した。

部屋の輪郭がぼうっと浮かびあがる。
囲炉裏と、衝立が見えた。

「上がれよ」

市九郎が促す。
赤猫は言われた通り上がろうとしたが、足の汚れが気になった。

「あ、あの、足…」

「足?そのままでいいよ。そんな大層な家じゃねぇ。」

そう言われては従うしかない。
おずおずと板間に上がる。

市九郎は毛皮の羽織を脱ぐと、部屋の隅に放り投げた。

「寝床はあの裏だ。先に入っとけ。俺はコレが終わったらすぐに行く」

そう言うと、スラリと腰の山刀を抜いた。

そのまま提灯と山刀を部屋の隅に置き、土間の方に歩いて行った。

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