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陽炎ーカゲロウー
第2章 初夜
市九郎はふぅー、とひとつ息を吐くと、赤猫の猿ぐつわを外し、目尻の涙を親指で拭う。
「泣く程のことか」
呆れたように呟く。
「…死ぬ、か、と…思った…」
なんとかそれだけ呟いた赤猫に、市九郎は目を見張り。
ぷッと吹き出した。
「死ぬワケねぇだろうが、この程度で。…ま、慣れたら死ぬ程気ィ遣ってやるからよ、期待しとけ」
この行為に何を期待しろというのか。赤猫にはさっぱりわからなかった。
市九郎は再び横にごろりと転がると、大いびきをかいて寝始めた。
赤猫は、どうすればいいのか戸惑うばかり。
最初に訪れた快感と、次に襲われた激痛が入り混じって、頭の中は混乱している。
ただ、一つだけ言えることは。
あの時。
あの場に市九郎が現れなければ、この痛みはあの三人の男たちによってもたらされたということ。
おそらく最初の快感はなく。
冷え込む秋空の下、敷布一枚ない外で。
三人の男に。
優しい抱擁もなく、コトが終わればポイと捨てられたのだろう。
さっきのような声を出せば、本当に殺されていたかも知れぬ。
それを思えば、市九郎は間違いなく、命の恩人だと思えた。
赤猫は、身を捻り、市九郎の胸に身体を預けた。
市九郎の腕が、手探りで赤猫をかき抱く。
市九郎の胸の中は、温かかった…

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