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陽炎ーカゲロウー
第2章 初夜

何が、もういいのだろう、と思った次の瞬間。

いきなり片方の足首を掴まれ、ぐいっと持ち上げられる。

左の膝が胸のあたりまで来る体勢のまま、先ほどまで市九郎の手があった位置に、手とは違う、硬い感触を感じた。

刹那。

突如訪れた、身体を引き裂かれるような激痛に、赤猫が叫ぶ。

「ィギャアアアァァァ‼︎」

その大声に驚いた市九郎は
咄嗟に手で赤猫の口を塞ぎ。

「馬鹿てめぇ、なンて声出すんだ⁉︎」

そしてきまり悪そうに、

「最初は痛ェっつったろうが!ちったぁ我慢しろ!」

と吐き捨て、

「あんな声出されちゃたまんねぇや」

と呟き、その辺にあった手拭いで
赤猫に猿ぐつわを噛ませた。

「あぐっ…!」

首の後ろで手拭いを縛ると、赤猫の口は完全に封じられた。

そして襲い来るあの痛み。

まるで何度も刃物を突き立てられるような、激痛。

猿ぐつわのせいで奥歯を噛み締めることもままならず、両の目からは涙が流れ落ちた。

どのくらい、続いたのだろう。


痛みに意識が遠のきかけた時。


市九郎の短い呻き声とともに、痛みが止まった。
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