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陽炎ーカゲロウー
第3章 朝餉
翌朝。
赤猫が目覚めたのは日がたかくなってからだった。
隣に市九郎の姿はない。
一人、夜具の上に身を起こしてみると、薄汚れた敷布に散った血が見えた。
洗濯しようにも、洗濯場の場所もわからぬし、市九郎に聞かねばなにもできない。
赤猫は諦め、起き上がって着物を着た。
喉が、渇く。
そういえば、水瓶があったはずだ。
赤猫は衝立の裏から出て、部屋の中を見回した。
昨夜は暗かったから、よくわからなかったが、朝の光の中で見ると、本当に目立つものが何もないガランとした部屋だった。
土間には水瓶がひとつあるきり。
釜戸もない。
板間の真ん中に囲炉裏。
あとは、壺や木の箱が幾つかあるだけだった。
水瓶から水を掬い、喉を潤す。
喉の渇きがおさまると、今度は腹が減ってきた。
食べるもの、何かないかな…
試しに壺の蓋を開けてみる。
中身は、菜っ葉の塩漬だった。
食べるものがあった…
赤猫は嬉々として、次の壺を開ける。
梅干が入っている。
後は、米があれば完璧なのだけど…と、木の箱に手をかけると、そこには。
米が入っていた。
やった!
少しくらいなら食べてもわからぬだろう。
赤猫は木箱からひと掬いの米を取り、鍋に入れた。そのまま水を入れ、囲炉裏に火をつける。
菜っ葉の塩漬と梅干も拝借した。
包丁とまな板は見当たらなかったので、手で細かくちぎった。
菜っ葉の塩気が、荒れた指先にピリッと染みる。だが、その痛みすらも心地良く感じるほどに、赤猫の心は高揚していた。
まともな飯など幾日ぶりか。
部屋を見渡し、壁にかかった獣の干し肉も見つけ、それも少し頂く。
吊るした糸は歯で噛み切ったが、流石に干し肉は手では砕けない。
そのまま鍋に放り込んだ。
しばらくすると、湯気とともに、鍋の中身がくつ、くつ、と、粘りのある音を立て始めた。
いい匂いに心が弾む。
その時。
ガラリ
戸が開いて、市九郎が帰ってきた。
怒られる‼︎
咄嗟に思ったが、隠れる場所もないし、言い訳もできない。
赤猫は首をすくめて目を閉じた。
赤猫が目覚めたのは日がたかくなってからだった。
隣に市九郎の姿はない。
一人、夜具の上に身を起こしてみると、薄汚れた敷布に散った血が見えた。
洗濯しようにも、洗濯場の場所もわからぬし、市九郎に聞かねばなにもできない。
赤猫は諦め、起き上がって着物を着た。
喉が、渇く。
そういえば、水瓶があったはずだ。
赤猫は衝立の裏から出て、部屋の中を見回した。
昨夜は暗かったから、よくわからなかったが、朝の光の中で見ると、本当に目立つものが何もないガランとした部屋だった。
土間には水瓶がひとつあるきり。
釜戸もない。
板間の真ん中に囲炉裏。
あとは、壺や木の箱が幾つかあるだけだった。
水瓶から水を掬い、喉を潤す。
喉の渇きがおさまると、今度は腹が減ってきた。
食べるもの、何かないかな…
試しに壺の蓋を開けてみる。
中身は、菜っ葉の塩漬だった。
食べるものがあった…
赤猫は嬉々として、次の壺を開ける。
梅干が入っている。
後は、米があれば完璧なのだけど…と、木の箱に手をかけると、そこには。
米が入っていた。
やった!
少しくらいなら食べてもわからぬだろう。
赤猫は木箱からひと掬いの米を取り、鍋に入れた。そのまま水を入れ、囲炉裏に火をつける。
菜っ葉の塩漬と梅干も拝借した。
包丁とまな板は見当たらなかったので、手で細かくちぎった。
菜っ葉の塩気が、荒れた指先にピリッと染みる。だが、その痛みすらも心地良く感じるほどに、赤猫の心は高揚していた。
まともな飯など幾日ぶりか。
部屋を見渡し、壁にかかった獣の干し肉も見つけ、それも少し頂く。
吊るした糸は歯で噛み切ったが、流石に干し肉は手では砕けない。
そのまま鍋に放り込んだ。
しばらくすると、湯気とともに、鍋の中身がくつ、くつ、と、粘りのある音を立て始めた。
いい匂いに心が弾む。
その時。
ガラリ
戸が開いて、市九郎が帰ってきた。
怒られる‼︎
咄嗟に思ったが、隠れる場所もないし、言い訳もできない。
赤猫は首をすくめて目を閉じた。