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陽炎ーカゲロウー
第3章 朝餉
湯だ。
市九郎が、使えと言った。
本当だったんだ…
風呂など何年振りだろう。
赤猫は早速入ることにした。
着物を脱ぎかけ、誰か入ってきては困るので、入り口の戸につっかい棒を咬ませる。
市九郎が帰ってきたら怒るだろうか。
怒るだろうな。
だが、土間には衝立一つない。
誰が入ってくるかわからぬ状況で風呂に入る気はなかった。
怒られても、声で市九郎だと分かれば開ければ済む。
赤猫は着物を脱ぎ、土間に降りた。
踏み台の上に、小さな木桶と木綿の小袋が入って置かれている。
木桶にそっと湯を掬い、泥がこびりついた足を洗う。
温かく、気持ちがいい。
土間を水浸しにするのは気がひけるので、そのまま踏み台に足をかけ、湯桶に足を差し入れた。
冷え込んだ身体に、ピリピリと刺すような熱い刺激。
だが我慢して入ってしまえば、心地よかった。
昔、よく、湯屋に行ったっけ…
赤猫は、知らず昔のことを思い出した…