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陽炎ーカゲロウー
第4章 過去
赤猫は昨夜のことを思い出し、衝立の裏で着物を脱いだ。
衝立に着物を引っ掛けたとき、市九郎が姿を現す。
市九郎は何も言わず。
赤猫を抱き締め、そのまま組み敷いた。
まだ痛みはあったが、昨夜よりはましな気がした。
昨夜ほどの声も出ず、猿ぐつわをかまされることもなかった。
市九郎の荒い息を耳元で聞きながら、ただ、時が早く過ぎ去ることだけを願う。
これが、市九郎が与えてくれる人間らしい生活の代償だというのなら、何ほどのことでもない。
そう思った。
市九郎は昨夜と同じく、終えると横に転がり寝始める。
赤猫も横を向き、その胸に身体を預けた。
「元の名を、思い出したよ。」
「ふぅん。・・・・で?」
「サチ・・・って呼ばれてた。」
「・・・そう、呼んで欲しいのか?」
「・・・別に。いい思い出ばっかりじゃないから。どっちでもいいかな。市九郎はどっちがいい?」
「別にどっちだっていいよ。けどま、付け火しねぇ赤猫ってのも面白いと思うけどな。」
「じゃ、それでいい」
甘えるように、胸に顔を埋める。
汗臭さが鼻につく。
だが不思議と、不快ではない。
がっしりとした腕に抱かれながら。
赤猫は眠りに落ちた。