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陽炎ーカゲロウー
第4章 過去
気がつくと、赤猫は涙を流していた。

湯桶の中でとめどなく溢れる涙を、手で拭い、湯桶を出て、ぬか袋で身体を擦る。

糠の油の臭いが鼻につく。

これで何が変わるのかは分からぬが。


一通り擦り終えると、また湯桶につかり、手拭いで身体を拭いた。

手早く着物を着、つっかい棒を外すと、また衝立の裏の夜具で休む。

ガラリ


戸が開く音がする。

市九郎が、帰ってきた。
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