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陽炎ーカゲロウー
第5章 欲
ふと湯に視線を落とすと、己の顔が映る。


磨いても消せぬ、この火傷。


市九郎なら、どんな見目の良い女でも選べるだろうに、なぜ、自分を囲うのだろう。


幾度となく頭をかすめる疑問。


火傷の痕を見るたびに思う。


人とは欲深なもので。


ひとつが満たされると、次のひとつが欲しくなる。

それが手に入れば、また次が。

人の欲は、満たされることのない、穴の空いた桶のようなものか、と時々思う。

化物と呼ばれた頃。

人として生きていけたなら、何も要らぬと思った。

市九郎に拾われ、人としての暮らしを与えられた頃、
己の願いは叶ったと思った。

それなのに。

今、赤猫はそれだけでは足りぬ、と感じる。

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