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陽炎ーカゲロウー
第5章 欲
「お前は…この火傷がなきゃよかった、って言うけど、俺は、あって良かったと思うぜ。」
「…どうして…」
「そりゃ、よ。この顔のせいで辛い思いもしたろう。
けどそりゃ俺の知らねぇ話だ。
俺に言えんのは、この火傷があるから、
お前は今ここに居ンだろうが。」
考えても見ない答えだった。
「お前は、こっちっかわの顔は別嬪だからな。」
そういって、火傷のない左側の頬を、
市九郎の大きな手がするりと撫でる。
「この火傷がなきゃ、嫁にしてぇって男が列なしたろうぜ」
赤猫は目を見開く。
化物と呼ばれたこの顔が、
半分だけは美しいと、言ってくれるのか。
「俺なんか到底手の届かねぇとこにいただろうよ。
けど、お前は今ここに居る。
そりゃあ俺にとっちゃあ僥倖だ。
火傷の一つや二つ、愛嬌ってなもんさ」
優しく髪をくしけずる市九郎の無骨な手。
赤猫の瞳に再び涙が浮かび、ぽろり、とこぼれた。
「なんだよ、また泣いてンのか?」
赤猫は小さくかぶりを振る。
「違うの…嬉しい…」
「変なヤツだな、お前はよ」
これ以上ない、褒め言葉だ。
赤猫はその日、その言葉を抱き締めて眠った。