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陽炎ーカゲロウー
第7章 八尋
「八尋は、市九郎が、好きなの?」

赤猫の問いに八尋は小首を傾げる。

「赤猫殿の仰る、好き、という言葉の意味が、私にはよくわからないのですが。それは、頭領に抱かれたいと思うか、という意味でよろしいですか?」

少し違う、が当たらずとも遠からず、というところか?

どう説明したものかわからず、赤猫はこくりと頷いた。

八尋は困ったように笑って、

「身体が男でなくなっても、心が女になる訳ではありませんから。男に抱かれたいとは思いませんよ。」

「頭領には恩がありますから。頭領が望めば、私に否やはございませんが、頭領はそうした趣味はお持ちでないから。おそらく今後もないと思います。…私は、貴女の恋敵ではありませんよ。ご心配なく。」

八尋はそう言って、また花のようにふわりと笑った。

「頭領が、貴女を選んだ理由がわかるような気がします。
貴女は少しも擦れたところがない。無垢で、とても美しい。私は女性に恋をすることもございませんが、もし、私が、女性に恋をするとすれば、それは貴女のような方だったかもしれませんね」

八尋は、哀しげに笑った。

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