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陽炎ーカゲロウー
第9章 春の息吹
アジトの裏には、一筋の小川があった。
程よく木が茂り、この時節は木漏れ日が心地よい。
市九郎は川べりにあぐらをかき、見るともなく小川の流れを見ている。
時折草をちぎっては、川に投げ込んだ。
ふいに、背後から、ざり、ざり、と棒で土を引っ掻くような音が聞こえ、それに続く足音に、市九郎は腕を組んだ。
「何だよ鷺。珍しいじゃねぇか。お前が外出てくるなんてよ」
「厠にね、出たついでに。
風が、気持ちよくて。何となく」
「そうか」
「市サンの、溜め息が聞こえたからね。」
「そんなもんで誰かわかんのかよ」
「わかるよ。何年付き合ってると思ってんの。
俺の耳馬鹿にしないでよ?」
そういうと、杖で足元を探りながら、市九郎の隣まで来て、ゆっくりと腰を下ろした。
「いいね。ここ。 木漏れ日がきれいだ」
「だからなんでわかんだよ」
「なんとなく。風と、木の葉ずれの音と。後は、もの思いにふける市サンの横顔を想像して?」
首を傾げて軽く笑う。
「なんだそれ」