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陽炎ーカゲロウー
第9章 春の息吹
「何か悩んでることがあるなら、話聞くよ?」
「ねぇよ、んなもん」
「市サン、ちょっと一人で背負込み過ぎじゃない?そりゃ、俺たちに出来ることなんてたかが知れてるよ。
でもさ、仲間だろ?もうちょっと心開いてくれてもいいんじゃないかと、俺は思うんだけど。」
「別に…心開いてねぇ訳じゃねぇさ。ただ…ホントに仕事は関係ねぇんだ。俺一人のこったからよ…」
「仕事じゃなくても、話聞くって言ってんの。市サン個人の悩みでいいの。寧ろそっちのが聞きたい」
市九郎は、観念したように、ふぅ、と息を吐いた。
「なんかよ、今まで、こんなこと考えもしなかったってのにな」
「何かあった?」
「なんてぇか、因果な稼業だよな、盗賊なんてよ」
「珍しいね」
「この仕事について、後悔なんかしたことなかったのによ。俺もだいぶ焼きが回ったな。歳かねぇ」
「何言ってんの。まだ歳って程じゃないでしょ。でも何か心境の変化があったんだ?…察するに、猫ちゃんのことかな?」
鷺は赤猫の事を猫ちゃん、と呼んだ。
市九郎は目を見開き、鷺の顔を見る。
「・・・なんか聞いたのか?」
「別に。カマかけただけ。でも図星なんだ?」
「おまっ!いい加減にしろよ!失せろ!!」
「何があったか知らないけど。市サンの意外な顔が見れたよ。女のことで悩むなんて、フツーの男だね、市サンも。」
「うるせぇよ!とっとと失せろっつってんだろうが!!」
「はいはい、退散しますよ。」
鷺はひらひらと片手を振ると、よっこらしょ、と杖に頼って腰を上げる。
足元を杖で探りながら、ゆっくりと来た道を帰って行った。
残された市九郎は、やり場のない溜め息を吐いた。