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陽炎ーカゲロウー
第11章 散
ダンダン!と激しく戸を叩く音に赤猫はビクリと肩を震わせた。
戸の外で、八尋の声がした。
「赤猫殿っ…!開けて下さい、八尋です!」
赤猫は慌てて土間に飛び降り、戸を開ける。
「どうしたの、八尋!?」
「赤猫殿っ…!頭領が!頭領が撃たれましたっ…!」
「…!? 」
それだけ言って肩で荒い息をする八尋を支えながら家に上げる。
相当な距離を走ってきたのだろう、言葉もなく、ひたすら息を整える。
赤猫は水瓶から水を汲み、湯呑みを渡す。
八尋はそれを一気に煽って咽せ込んだ。
「大丈夫っ?」
慌てて八尋の背中をさする。
「申し訳、ありませっ…、ゴホッ」
息を整えた八尋は、状況を話し出した。
「頭領は、脇腹を火縄で撃たれました…手下の者が、運んでおります。もうすぐこちらに着きましょう…」
ふぅ、と一つ息を吐き。
「私は屋根の上に居りまして、一部始終をしかと見たわけではないのですが…傍に居たものの話では、幼子が、厠か何かで起き出していたようでして…
寝惚けたまま、てて親と見間違えたか、頭領の足にまつわりついたようなのです…手下の者が強引に引きはがそうとした時、頭領がそれを制して…
その騒ぎに家人が起き出し、撃たれたとのことです…」
「市九郎は、生きてるのね…!?」
「私が知らせに走る前には、意識がおありでした。ただ、傷は深いです。腕や脚ならば、きつく縛って血を止めるのですが、腹は…
どこを縛っても血が止まりません…」
「医者は!?」
「我らは盗賊です。
医者になど駈け込めません。兵衛は本職ではありませんが、多少医術の心得がありますから、こちらに運んでおります。」
「では、こちらに着けばなんとかなるの!?」
「…わかりません。私には、何とも…ただ、助かることを祈るのみです…」
悲しげに顔をそむける八尋に赤猫はぎゅっと口唇を噛んだ。