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陽炎ーカゲロウー
第11章 散
「あ、あの、八尋…」
思ってもみなかった成り行きに、赤猫は戸惑い八尋を伺う。
八尋は困ったように笑った。
「鷺には敵わない…全て見透かされていたとはね…」
「八尋、本当に私のこと…?私、こんな顔なのに…」
「おそらく、頭領と同じく。私は貴女の内面に惹かれました。外見は関係ありません。」
八尋はそっと赤猫の右頬に触れる。
「私は、男の身体ではないから…女性に恋などすることはないと思っていました。でも、心に少しだけ、男が残っていたようですね…」
赤猫は、八尋の華奢な手をそっと握る。
「私は、面倒臭いですよ?身体は男ではないから、頭領のように貴女を抱けるわけじゃない。貴女の身体を満足させることはできません。
それでも、貴女が他の男を求めるのは許しません。それがお嫌なら、今ここで離れて下さい。」
赤猫は視線を落とし、かぶりを振った。
「市九郎の代わりなんて、きっとどこにもいない。だから、あんたさえよけりゃ、一緒に居てくれると心強い。誰かの支えがなきゃ、私はまた、化物に戻ってしまうかもしれないから…」
八尋はそっと赤猫の肩を抱いた。
「力不足ですが、誠心誠意、お守りします。頭領に、生かされた者どおし、供に生きて参りましょう。」
穏やかな口調と、柔和な笑顔。
全く正反対の八尋に何故か市九郎の勝気な笑顔が重なる。
「俺のオンナになれ。俺がお前を護ってやる」
肩を寄せ合う二人を祝福するように。
爽やかな夏の風が吹き抜けた。