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陽炎ーカゲロウー
第11章 散
「兵衛も、鷺も、八尋も、皆バラバラになるの…?」
「俺らみたいなのが一所に固まったとこで、動きにくいだけだ。これからは各々自分で歩いていくべきだと思うよ。」
「この足では仕事も限られるがの。まぁ、いざとなったら乞食でも物乞いでも生きてはいけるだろうて。」
「そうそう。あ、でも、八尋は猫ちゃんの傍にいてやりなよ。猫ちゃん、こいつ、すぐ泣くし頼りないけど、すばしっこいし腕は立つからさ、こき使ってやんなよね」
「な、なんで…」
八尋が狼狽えると、鷺は肘で八尋をつつく。
「とぼけんなよ。お前が猫ちゃんのこと好きだってことぐらいお見通しなんだよ。最近、お前男の顔になってきたぞ」
赤猫は驚いて八尋の顔を振り仰ぐ。
「さ、鷺には見えないだろ!?」
八尋の顔は真っ赤だ。
「確かに、俺のこの二つの目は使いもんにゃならない。けど俺にはね、もうひとっつ、ここに目があるんだ。」
そういって鷺は、自らの胸を親指でトン、 と示した。
「だから、お前が今どんな顔してるかくらいちゃーんとわかってる。八尋。もう男じゃねぇなんて甘えるのはやめろ。
これからは、お前が市サンの代わりに猫ちゃんとお腹の子を守っていくんだ。分かったね?」
「鷺…って、え?お腹の子って?」
「俺の勘。でもたぶん、いるよ。市サンの忘れ形見が、ね。」
八尋は大きく目を見開いて赤猫を見た。
赤猫はふるふるとかぶりを振る。
「俺の勘、当たるんだ。期待して待ってて?じゃあね~」
鷺はひらひらと片手を振り、杖で足元を探りながらゆっくりと離れていく。
「今度どこぞで行き会うたら、銭の一つも投げてくりゃれ~。ではの~。」
兵衛も大きく手を振り、杖に頼って歩き出した。
そして、
その場には二人が残された。