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氷解
第1章 氷解
だが、周防は、とても優秀だった。

公認会計士の資格を持ち、イギリスでバトラー養成学校に通った経歴を持つ周防は、年老いた執事の代わりに、この邸の管理や雑務を難なくとこなしていく。
そして、本来の仕事ーーー父親の秘書としての業務も完璧に務めるのだ。

そして陽菜子には

「私の務めは、可憐な花のような陽菜子お嬢様をお守りすることでございます」

そう告げて。

周防は陽菜子のスケジュール管理だけではなく、その日に着るものまでも、全てを管理していく。

「何故? 私は周防が選んだ服じゃなくて、自分で服を選びたいの」

と、言っても周防は、陽菜子の要望に首を縦には振らない。

「陽菜子お嬢様が俗世間に惑わされない為に、私がコーディネートをしているのです」

「言っている意味が、わからないわ」

「お嬢様はいずれご結婚をされるお相手、まだ見ぬ婚約者様の為に貞淑に清らかなままお過ごしください。その為には流行など、俗世間に惑わされてはいけないのです」

流行の服は下品だと除外する周防は、良家のお嬢様を思わせる洋服のみを着るようにと言った。

大学の行き帰りも、運転手が送迎し、時には周防が同行する。

周防に管理される陽菜子には、行動の自由というものが、全く無いと言ってもいいぐらいだった。

「お父様! 周防は、厳しすぎますっ!」

陽菜子が、文句を言っても

「小学校から今の大学まで、ずっと女子校にいる陽菜子は世間知らずだ。だから、周防は陽菜子を心配して守ってくれているんだよ」

と、周防を信頼する父は、陽菜子の言葉に聞き耳を持たない。

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