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tsu-mu-gi-uta【紡ぎ詩】
第162章 「師任堂の深紅の絹の包み」を読んで
 この物語の中で生きるサイムダンは、けして理想化された女性ではない。秘密の恋に悩み、結婚してもなお昔の恋に身を焦がし、嫉妬もすれば嘆きもする、誰かを憎みさえする生身の女である。
 そんな彼女がそれでも、道を過つまいとその瞬間瞬間を懸命に真摯に生き抜こうとした軌跡が「申・サイムダン」という偉大な女性芸術家の今に伝わる業績の裏にあったーと素直に納得できる。
 女性の聖人君子版のような、道徳の教科書に載るような模範的婦女伝であれば、読者の共感を得ることは難しいであろう。この物語が「人間、サイムダン」を描いているところに深い魅力があるのだ。
 もう一度、読み返したいような味わいのある作品であった。
 もちん、これは伝記ではないし、フィクション要素の大きな作品であるらしいのだが、現代に残るサイムダンが描いたという生き生きとした草虫図からは、やはり取り澄ました聖人(天才儒学者李栗谷の母)というよりは、人生の歓びも哀しみも味わい尽くした苦労人としての人間サイムダンの小さな生命、虫たちを見つめる優しいまなざし、愛おしむ情が伝わってくるがゆえに、実際のサイムダンという女性もこのような感情豊かなひとであったのではないかと十分にうなずけるのである。
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