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弓月 舞 after story 集
第7章 君の視線が絡み付く


問題の復習を始める。

それでも彼の視線から逃げられない。


「この問題でPの軌跡を求めるには……」


ああ……すごい。真っ直ぐ見られてる。


「…与えられた式を…!…放物線か円の式に変形しなきゃいけないから…」


唇の動きから、まばたきのタイミングまで、全部

全部

あの目がずっと見てる。

何も見逃してくれない。


「まずは変数を右辺に……ッ」


声が途切れそうになる。
息が止まりそうになる。

まるであの視線に…絡み取られているみたい。

ねっとり、じっくりと、太い蛇が私の身体を這い回るような錯覚。

私は必死に絶えて、説明を続けた。



ヂリヂリヂリヂリ

ジージージージー、ジージージージー



さらに追い打ちをかけるがごとく、セミの声が頭に響く。

夏の怠さを凝縮した音の洪水…。

声を出そうと息を吸うごとに、乾いた喉が焼かれる。

暑い。


「……ッ─のように変形して……公式……を……」


ヂリヂリヂリヂリ....


「…ッ…は…!……ハァ……ハァ……」


暑い……。

肌に当たる空気も、吸い込む空気も

いや、それだけじゃない……

身体の内側──みぞおちの下のほうから、どんどん身体が火照ってくる。

彼の視線に晒されるだけで

苦しいくらいに熱くなる……。


「……汗」

「…ハァ、ハァ……ッ……ぅ」

「汗が凄いね……センセ」

「ハァ…ハァ………使う…‥公式…は、…‥‥これ、で」

「………」


私は必死だった。

自分が何を喋っているのかわからなくなるほど、集中できていなかったけれど

彼の言葉も聞き取れないくらい上の空だったけれど

私は説明を止められなかった──たぶん、止めた途端に彼が取るであろう次の行動を想像して、怯えていたからなんじゃないか。

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