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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第6章 あいするひと




「ジバル様」
「ああ」
「好きです」
「ああ、オレもだ」
「失いたくないです」
「オレも、そう思う」
「ハイネも、失いたくないです」
「……」


呼吸が整った頃。私は顔を上げて彼を見た。
まだじっとりと汗ばんだ体を絡みつかせていたジバル様は、ぼんやりと天井のステンドグラスを眺めていた視線をこちらに向けて、言葉の意味が分からないというように首を傾げる。


「私を信じてください」
「ミア……?」


きっと、ハイネを守ることを一番に考える彼なら、いい顔はしないと思う。もしかしたら今度こそ本当に嫌われてしまうかもしれない。けれど、何もしないで思い出に浸るよりも、嫌われてもいいから彼らを日のあたる場所に出したかった。

私が嫌だったのは、何も出来ないで国に帰ることじゃない。ジバル様と離れ離れになることじゃない。
この暗い城をそのままにして、私がいなくなったあとも同じように自分を嫌い、醜さに傷つく二人が居続けることだ。

それは紛れもなく偽善で、エゴイスティックな考えだろう。けれど、私は時間を貰った。あと一日。


(だから、どうなっても)


ぎゅっと拳を握ると、その手に大きな手が重なった。


「君の好きにするといい」

「……ジバル様……」

「ハイネ様を大切に思う君が、いいと思ったことをしてくれ」


私はそのまっすぐな目を見て、頷いた。



***
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