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偽りの身の上〜身代わりの姫君〜
第5章 おうさま
「……」
王様は一瞬固まって、それから小さく息を吐いた。
「全てか?」
「ええ。それで……、私がその呪われた王様に仕えているメイドだとしたら、呪いが解けなくても、きっとずっと一緒にいてあげるのにって思いました」
「解けなくても……?」
「愛し、愛されなければ呪いが解けないんだとして、私を愛してくれなくても、誰かがそばにいられたらきっと王様も寂しくないでしょう?」
王様はうつむいて、小さな声で漏らした。
「……彼は、呪いが解けるまで成長が止まったままだ」
「そう……そうですね。それでも、おそばにいたいです」
そっと手を伸ばして、王様の手に触れようとする。その寸前で、止めた。
また同じことを繰り返したくなかったから。王様を苦しめるのは嫌だったから、伸ばしかけた手を下ろすと急に王様がその手を握る。強く、冷たい指先。
「オレは、そんなの嫌だ」
「え」
ギリ、と痛いほど強く握られる手に耐えながら、うつむいたままの王様を見る。
「……」
「王様……?」
「っすまない、オレは……」
はっと気づいたように、彼は手を離して数歩距離をとった。
まるで叱られた子供のように何かに耐える様子で王様は呟いた。
「……オレに、優しくしなくていい」
「でもっ」
「……お前が、金や、国や、贅沢や、そういうものを願う女なら良かったのに」
「王様……?」
独り言のように苦々しく呟くと、王様はマントを翻し早足で部屋を出て行ってしまった。
私は強く握られた手を胸に抱きながら、枕に飛び込んでその言葉を何度も反芻した。けれど理解は出来ない。意味も分からない。
ふわりと握られた手から甘く柔らかなかおりがして、それを胸いっぱいに吸い込む。王様のにおいを忘れないように深く深く、記憶するように繰り返していると、いつの間にか意識が薄れていった。
――そしてまたあの淫らな夢を見る。