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掌の官能小説
第5章 あの日にかえりたい
俊輔…

俊輔は私を抱き締めた。
俊輔の胸の匂いに、私は胸がキュンとした。

「久しぶりだなぁ、季子。」
私を見て笑ながら言った。

俊輔とは小学校からの友達。
私は、俊輔を初めて見た時から好きになった。

俊輔のブラウンの瞳に私は惹きつけられたのだった。

中学生になる頃は他の同級生よりもちょっとだけ仲良しな関係になっていた。

お互い違う大学に行き、お互い彼氏彼女が出来、
それでもたまに二人で遊んでいた。


二人で飲んでいた時に、電話が鳴り友達から連絡事項を言われ、忘れないうちに書き込もうと、
予定を手帳を開きペンケースを開けた時、シャープペンが転がり落ちた。
俊輔がそれを拾って私に渡してくれた。

「ありがとう。」
私が受け取ろうとすると、俊輔は手を引っ込めた。

「これ…」

「あ…」

実は俊輔の筆箱から中学生の時に無理やり取ったものだった。

私はしらばくれようとした。

「ずっと持っていたの?」
俊輔はシャープペンを見ながら言った。

「どうしたんだったけ?」
私はとぼけた。

高校受験の時のお守りで筆箱に入れ、それからずっと私のお守りとして肌身離さずいたのだった。

私は俊輔からシャープペンを返して貰うとペンケースに入れた。

「あの時、季子、俺の筆箱から持って行ったよな?」

「え?俊輔のだった?」

「私ったら…返そうか?」

「いや、使わないし…季子にやるよ。」

「ありがとう。」

「だって、俺、筆箱季子から貰ったし。」

「え?」

「黒い皮の筆箱。」

「あ…」
なんとなく思い出した。

ずっと皮の筆箱を探していて、私が持っていたのが気に入り
俊輔は欲しがったのだった。

俊輔はお金を払うからと言ったが、私は使い古しだったし、俊輔が欲しいのなら…とあげた…なぁ。

「俺、まだ使ってんだ。」
そう言い恥ずかしそうに俊輔は笑った。

俊輔が好きだからシャープペンを貰い、筆箱をあげた。

ただそれだけだった。

「俺さ…」

「ん?」

「いや…まぁいいや。」


「私ね…」

「何?」

「ん〜いいかっ」

私は俊輔を真似た。


「真似しやがって!」

「ふふふ。言えないもの。本当は。」
私は含みを持たせ笑った。


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