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桜の季節が巡っても
第1章 心恋の春
泣き出しそうな顔を悟られぬように、泉夏は更に深く頭(こうべ)を垂れた。
無言で俯く泉夏に、彼が何かを言おうと口を開く気配がした。
それを泉夏は即座に感じ。
気付けば彼をその場に置いて、全速で教室まで走っていた。
波打つ胸はもう鎮められなかった。
これ以上何かを言われたら、どうなってしまうか自分でも分からなかった。
それが怖くて、彼の言葉を拒絶するように、走り去った。
必死に息を整え。
最前列、教壇に最も近い場所に着席する。
見渡せば、教室はほぼ満席に近かった。
担当の准教授が、前方右側から入室する。
教壇に到着した彼のすらりと伸びた指先が、胸元のポケットから眼鏡を取り出した。
形の良い耳朶にかけ、長めの前髪を払う。
あの日。
桜の木の下で。
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