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優しい愛には棘がある
第1章 ご注文はイケナイ遊戯
大通りを外れて細道を入っていったところに紛れた某コンビニエンスストアは、近隣住民の緊急時に貢献している一方で、深夜になると荒れくれ者の溜まり場になるという欠点があった。
笹嶋心咲(ささじまみさき)は、この春からここの従業員だ。
心咲は本来、父親が代表取締役を務める会社に入社する予定を控えていたが、昔から見栄とプライドに浸かりきった家庭環境に馴染めなかった。
チャンスがあるなら実家を出たい。のべつ頭の片隅にあった淡い願いが積もりに積もった四ヶ月前、とうとう社会経験を口実にして、晴れて大学を卒業と同時に今の生活を始められたのである。
心咲は今夜も業務を上がると、こぢんまりしたバックルームで帰り支度を始めた。
シャツにスラックスにエプロン。動きやすい制服から、贔屓にしているメゾンで揃えたガーリーカジュアルな私服に着替えると、耳の近くで二つに分けて結っていた、木苺の色の艶を帯びたミディアムヘアのゴムもほどいた。
従業員用出入り口へ向かった矢先、得も言われぬ嫌悪感が心咲を襲った。
いかにもかしましい談笑が、すぐ向こうからこぼれてきたのだ。
「あ"ぁっ、まじストレス!給料上がんねぇわ理事長はハゲだでやってらんねぇっ」
「学生時代に戻りてぇよなぁ。ったく、金髪のどこがいけねぇんだっつーの。あの田中、「貴女のような協調性に欠ける社員が、いずれ社会の不適合者というものになるのよ。いるでしょう?デモ隊だの社会運動だのに参加する、おかしな人達」とかほざいてやがるんだぜ。その前に田中が不適合者だ」
「言えてるーっ。第一、人をおかしい人間扱いするヤツに限って、思い上がってる性格ブスばっかじゃねぇ?!」
がははっ、と、だみ声の笑い声が豪快に上がった。
耳を済ませばカップラーメンを啜る水音まで聞こえる。
外にいるのは、俗に言う不良のようだ。
ただし、話の内容から察するに、全員、心咲より年上の社会人らしい。