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優しい愛には棘がある
第2章 Moon crater affection
「……いづる?」
月子の戸惑いを訴えるような声が揺らいだ。
泣いていた。
ずっと抑えてきたものが、今になって抑えられない。安らかな毒が逃げてゆく。
いづるはあまりに自分に似ている少女を愛した。
それでいて、似ていない。だから安らぎを見出すのか。
「なん、でも、ない……何でも……」
「何でもないことないでしょ」
「ごめん」
「──……」
「私は月子が好きだから、……ごめん」
「…──っ、それ……」
好きだ。大好きだ。同じ傷を抱えた同志だからではない。
もし月子を愛せるなら、今日まで怖れてきたどんなものも、きっと弾き返せる。この想いをせめて月子が許してくれたら、きっと世界は色を変える。
いづるを選んでくれなくて良い。
ただ、この優しい人を愛していられたら。
「ごめん。好きになって、ごめん……月子」
「あ……ああ……」
いづるの背に、細い腕が被さってきた。上体が月子の柔らかな胸に沈む。
ただ、この夢にまで見た抱擁に、やはり特別な意味はない。
第2話 『Moon crater affection』─完─