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星の島で恋をした【完結】
第19章 《十九》
対するセルマが乗っている馬車は、王家の馬車ではなく、城の人たちが使用する共用のもの。たまにおてんばなことをするカティヤ王女が使用することがあるが、さすがに遠出するときに使用したことはない。
だからこの馬車に乗っているのがカティヤ王女ではないというのは向こうは分かりきっているはずだ。
となると、やはり公爵家はセルマのことを分かっていて……?
セルマはもう一度、そっと馬車の外をのぞき見た。
セルマが乗っている馬車の周りにはざっと見て十人の武装した人たちと公爵家のだれか。
セルマは黒服の男をじっと見た。風によって乱された服と髪を忌々しそうな表情を浮かべながら整えているのを見て、ようやく思い出した。
あの男は、アントン=バルジャー。公爵家の三男で、三兄弟の中で一番評判の悪い男だ。しかもカティヤ王女にやたらと強い態度で求婚を迫っていたのもアントンだったような気がするのだが……。
嫌な符号ばかりがそろっていて、セルマはとにかく逃げなければと思うのだが、今のこの状況を打破するなにかの策はまったく思い浮かばなかった。
どうするべきかと悩んでいるうちにアントンは髪と服を整えたようで、ふんっと鼻息を荒く吐き出すと、コツコツとわざとらしく足音を立ててセルマが乗っている馬車に近づいて来た。
そして真っ直ぐとやってきて扉を叩くことなく荒々しく開けたかと思うと乗り込んできて、セルマが構える間もなく腕を拘束され──口元になにかを押しつけられた後、そこから記憶がない。
だからこの馬車に乗っているのがカティヤ王女ではないというのは向こうは分かりきっているはずだ。
となると、やはり公爵家はセルマのことを分かっていて……?
セルマはもう一度、そっと馬車の外をのぞき見た。
セルマが乗っている馬車の周りにはざっと見て十人の武装した人たちと公爵家のだれか。
セルマは黒服の男をじっと見た。風によって乱された服と髪を忌々しそうな表情を浮かべながら整えているのを見て、ようやく思い出した。
あの男は、アントン=バルジャー。公爵家の三男で、三兄弟の中で一番評判の悪い男だ。しかもカティヤ王女にやたらと強い態度で求婚を迫っていたのもアントンだったような気がするのだが……。
嫌な符号ばかりがそろっていて、セルマはとにかく逃げなければと思うのだが、今のこの状況を打破するなにかの策はまったく思い浮かばなかった。
どうするべきかと悩んでいるうちにアントンは髪と服を整えたようで、ふんっと鼻息を荒く吐き出すと、コツコツとわざとらしく足音を立ててセルマが乗っている馬車に近づいて来た。
そして真っ直ぐとやってきて扉を叩くことなく荒々しく開けたかと思うと乗り込んできて、セルマが構える間もなく腕を拘束され──口元になにかを押しつけられた後、そこから記憶がない。