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星の島で恋をした【完結】
第4章 《四》
*
履き物を見つけたものの、セルマは結局、気怠い疲れを感じて、ガゼボの端、陽の当たらない木の床に直接座ってぼんやりとしていた。
先ほどまでの狂乱が過ぎてしまえば、この島の異常さを思い出して思わずセルマは息を詰めていた。
海から島、島から海に吹いていく風は妙に透明で、俗なセルマにとってはそれはひどく不安になるものだった。
セルマがここにいることで、この島を吹き抜ける風を汚しているのではないか。
そんな気持ちがもたげてきて、息をするのも苦しくなってきた。
だから膝を抱えて小さくなっていると、背後から笑い声がしてきた。振り返らなくてもそれがだれだか分かり、むっとした。
「……なに、笑ってるのよ」
笑っているだけでなにも言わない男の態度に痺れを切らして、白い履き物の先を見つめながら口だけで突っかかった。態度と口調が拗ねているようになったが、実際そうだったのかもしれない。案の定、男はまた新たに笑っていた。
男の気配が近くなっているのに気がついたセルマは、丸めていた背中を伸ばして口を開いた。
「来ないでよ!」
「傷はどうだ」
セルマの拒否の言葉に重ねるように、まだ少し笑っているような声音ではあったが、まさかの気遣いの言葉をかけられ、セルマはとっさになにも返せなかった。
「その肩の傷、思っているより重症だからな」
「……え」
「あんた、強いな。呪いの矢を受けて生きているんだから」
「──呪いの、矢」
「そう。カティヤに向けられた呪詛が込められた矢だ。対象者ではないあんたが受けたからかもしれないが、それでも弱ければ死んでいた」
そんな恐ろしいものだったとは知らず、セルマはぞくりと震えた。知らず自分の身体を抱きしめていた。
「あんたは大切なカティヤを護ってくれたし、カティヤからも頼まれたからな。今は俺の力で痛みを抑えているが、また痛み出すからあまり無理をするな」
セルマはそっと左肩に手を当てたが、あれほど痛かった場所は多少の違和感があるだけだった。
「あと、腹は減ってないか」
「……え」
履き物を見つけたものの、セルマは結局、気怠い疲れを感じて、ガゼボの端、陽の当たらない木の床に直接座ってぼんやりとしていた。
先ほどまでの狂乱が過ぎてしまえば、この島の異常さを思い出して思わずセルマは息を詰めていた。
海から島、島から海に吹いていく風は妙に透明で、俗なセルマにとってはそれはひどく不安になるものだった。
セルマがここにいることで、この島を吹き抜ける風を汚しているのではないか。
そんな気持ちがもたげてきて、息をするのも苦しくなってきた。
だから膝を抱えて小さくなっていると、背後から笑い声がしてきた。振り返らなくてもそれがだれだか分かり、むっとした。
「……なに、笑ってるのよ」
笑っているだけでなにも言わない男の態度に痺れを切らして、白い履き物の先を見つめながら口だけで突っかかった。態度と口調が拗ねているようになったが、実際そうだったのかもしれない。案の定、男はまた新たに笑っていた。
男の気配が近くなっているのに気がついたセルマは、丸めていた背中を伸ばして口を開いた。
「来ないでよ!」
「傷はどうだ」
セルマの拒否の言葉に重ねるように、まだ少し笑っているような声音ではあったが、まさかの気遣いの言葉をかけられ、セルマはとっさになにも返せなかった。
「その肩の傷、思っているより重症だからな」
「……え」
「あんた、強いな。呪いの矢を受けて生きているんだから」
「──呪いの、矢」
「そう。カティヤに向けられた呪詛が込められた矢だ。対象者ではないあんたが受けたからかもしれないが、それでも弱ければ死んでいた」
そんな恐ろしいものだったとは知らず、セルマはぞくりと震えた。知らず自分の身体を抱きしめていた。
「あんたは大切なカティヤを護ってくれたし、カティヤからも頼まれたからな。今は俺の力で痛みを抑えているが、また痛み出すからあまり無理をするな」
セルマはそっと左肩に手を当てたが、あれほど痛かった場所は多少の違和感があるだけだった。
「あと、腹は減ってないか」
「……え」