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星の島で恋をした【完結】
第15章 《十五》
     *

 スキアは影だとリクハルドは言った。

 セルマは遠くから崖の影を見てもスキアを見つけることができなかった。

 だけどようやくセルマはスキアを認識することができた。

 リクハルドがスキアを影だといったのは、スキアが島と同じく真っ黒な不定形だったからだ。それはまるで影のようだった。

 この星の島は昼間は陸地が黒い。しかも崖の影にいたのだから、スキアが分からなくても仕方がない。



 スキアは崖の影で蠢いていた。だけどとセルマは思う。スキアは崖の影から出てきても、やはり影なのだろうと。

 スキアの正体は影だ。そう、影だったのだ。

 だから黒くて影と一体化したかのようで分からなかった。

 崖の側にできた影の下、黒い影が蠢いていた。それはセルマが今まで見たことのある獣に似ているような、初めて見るような、不思議な形をしていた。

 四つ足……なのだと思う。だけどそれはゆらゆらと揺れていて、しっかりとした形を持っていない。透明な風が吹いてくればスキアはそれに合わせてゆらりと揺れて形を変えたし、かといって風に抗うように固そうな形に変形したし、とにかく、今まで見たことのない獣だった。

 こんなもの、倒せるのだろうか。

 セルマのそんな不安に反応したのか、スキアは地面を揺らすほどの咆哮を上げた。

 セルマはそれを聞き、身体がぶるりと震えた。

 こういう場面だったら、いつもならセルマの手には愛用の剣が握られているのだが、ここには療養目的で来たのもあり、持ってきていない。常とは違う状態にいるセルマは落ち着かない。



「【エカ ムズ オ ユジム】」


 セルマの斜め後ろから聞き覚えのある低い声が聞こえてきた。スキアから目を離さないようにしながら視界の端で声のする方を見ると、膝くらいまで水に浸かったリクハルドが立っていた。詠唱に呼応して周りの水が逆巻き始めた。



 カティヤ王女の護衛にはセルマのような剣や槍を使う者と弓術者──こちらは物理攻撃者と呼ぶ──、そしてリクハルドのように魔術などを使用する術者といる。何度か魔術師とともに行動をしたことがあるが、そのときもすごいとは思ったけれど、リクハルドはそれ以上の使い手のような気がする。
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