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海棠花【ヘダンファ】~遠い約束~
第1章 燐火~宿命の夜~
「なに、どうせすぐに冥土送りにする娘だ。冥土の土産にこれくらい教えてやっても、罰(ばち)は当たらねえだろう」
長身の男が事もなげに言った。
と、痩せぎすの男が眼を瞠った。
「おい、民(ミン)洙(ス )。このガキを見てみろよ」
二人の男はしばらく声を潜めて何やら囁き合っていた。時折、梨花の方を指さしているのを見ると、どうも自分に関する話題らしい。
「スンチョン、ねえ、しっかりして、スンチョン!」
その間、梨花は乳母の身体に取り縋り、懸命に揺さぶり続けた。
だが、忠実無比で優しかったスンチョンは微動だにせず、溢れ出す血は止まるどころか勢いを増している。
「スンチョン、死なないで」
梨花はスンチョンの身体に顔を押しつけて泣いた。背中からばっさりと斬られたようで、背中に大きな傷が走り、血はそこから迸っている。梨花は白の夜着が血濡れるのも構わず、自分の小さな手で傷痕を押さえた。
そうすれば、溢れる血を少しでも少なくできると考えたのは、やはり利口とはいえ幼い子どもであった。
母よりも身近だったスンチョン、夜通し、傍にいて見守っていてくれた優しい乳母。
その乳母はもう眼を開けることもなく、微笑むこともない。幼い梨花にも、乳母の身体から既に魂が出ていってしまったことは自ずと知れた。
長身の男が事もなげに言った。
と、痩せぎすの男が眼を瞠った。
「おい、民(ミン)洙(ス )。このガキを見てみろよ」
二人の男はしばらく声を潜めて何やら囁き合っていた。時折、梨花の方を指さしているのを見ると、どうも自分に関する話題らしい。
「スンチョン、ねえ、しっかりして、スンチョン!」
その間、梨花は乳母の身体に取り縋り、懸命に揺さぶり続けた。
だが、忠実無比で優しかったスンチョンは微動だにせず、溢れ出す血は止まるどころか勢いを増している。
「スンチョン、死なないで」
梨花はスンチョンの身体に顔を押しつけて泣いた。背中からばっさりと斬られたようで、背中に大きな傷が走り、血はそこから迸っている。梨花は白の夜着が血濡れるのも構わず、自分の小さな手で傷痕を押さえた。
そうすれば、溢れる血を少しでも少なくできると考えたのは、やはり利口とはいえ幼い子どもであった。
母よりも身近だったスンチョン、夜通し、傍にいて見守っていてくれた優しい乳母。
その乳母はもう眼を開けることもなく、微笑むこともない。幼い梨花にも、乳母の身体から既に魂が出ていってしまったことは自ずと知れた。