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海棠花【ヘダンファ】~遠い約束~
第5章 凍れる月~生涯の想い人~
  凍れる月~生涯の想い人~

 ふっくらとした月が清(さや)かな光を地上のものすべてに投げかけている。
 梨花は小さな息をつくと、身を震わせた。冷たい夜風が身の傍を通り過ぎてゆく度に、寒さが身体の芯まで滲み込んでくるようだ。
 十三夜の月は蒼白く染まり、ついと手を伸ばせば届きそうなほど近い。月の表面にくっきりと落ちた陰影までもがはっきりと見える。
 夏に見上げる月と違い、真冬の月はまるで夜空でそのまま凍っているかのように見えてならない。地上を照らし出す月光もまたしかりで、夏の月はやわらかな光を優しく注ぐのに比べ、冷たい月明かりに包まれただけで、身体ごと凍えてしまいそうだ。
 梨花は指定された場所に辿り着くと、ゆっくりと注意深く周囲を見回した。
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