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海棠花【ヘダンファ】~遠い約束~
第5章 凍れる月~生涯の想い人~
 それにしても、こんな真冬の夜中に何の用があって、千(チヨン)夏(ハ )は自分を呼び出したりしたのだろうか。
 ここは尹家の庭でも最も奥まった場所になり、昼間ですら誰も寄り付かない。ましてや、今は全く使用されていない物置小屋で相談する事など、あるのか?
 とはいえ、確かに、ここならば、他人に話を聞かれる心配はまずないだろう。
「チョンハ、どこにいるの?」
 潜めた声で呼んでみるが、返事はいつまで経っても、返ってこなかった。
 もしかして、もう物置小屋に入って待っている?
 梨花は小さく息を吸い込み、月明かりに照らされた庭を更に進む。月が出ているお陰で、庭を歩くのに格別不自由がないのはありがたかった。
 そもそも事の発端は、今朝にまで遡る。山のような洗濯物を終え、一旦自室に戻った梨花は、短い走り書きを見つけた。
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