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海棠花【ヘダンファ】~遠い約束~
第1章 燐火~宿命の夜~
 子どものことを持ち出され、冷酷な男の瞳が一瞬、父親のそれになった。
 ああ、こんな人でなしたちにも妻や子がいるのか。梨花は妙なところで感心する。
―私が家僕のジュソンから聞いたところでは、大(テー)監(ガン)さま(ナーリ)と奥さま(マーニム)は既に―。
 あの科白の続きは、ある程度は予感できた。
 けして認めたくはないけれど、恐らく、梨花の父や母は既にこの悪党どもに亡き者にされているのではないだろうか。
 男たちは何故、兵曹判書である父を殺したのか? 恐らく、金を得るためだろう。妻や子らのために、この男どもは人の生命を虫けらのように踏みにじったのだ。
―お前の親父は知らなくても良い秘密を知りすぎた。妙な正義感なぞ抱かず、長い物には巻かれろと見て見ぬふりをしていれば良かったものを。
 男たちの言葉を今更ながらに思い出す。父は重大な秘密―知ってはならないことを知ってしまった。だから、殺されたのだ。恐らく義禁府長として何かの事件か犯罪について極秘裏に探っていたのだろう。
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