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海棠花【ヘダンファ】~遠い約束~
第6章 兄の心
「お父さん、歳のせいで涙脆くなっちゃったのねえ」
 梨花はその場が湿っぽくならないようにわざと明るい声で言い、懐から出した手巾で父の涙をぬぐった。
 しばらく父の傍で兄と喋っている中に、父が眠った。
「どうだ、似合うだろ? 俺だって、この上等の帽子を被れば、両班に見えねえか?」
 梨花の贈った帽子を被ったソルグクが少しおどけて澄まして見せる。
「本当、どこかのお屋敷の坊ちゃんみたい。見違えるわよ」
 梨花も調子を合わせる。
「こいつ、褒め過ぎるのは、かえって相手に失礼だってことを知らないのか?」
「お兄ちゃんが先に自分で言ったくせに」
 梨花も負けずに言い返す。
「口の減らねえ奴だな」
 ソルグクがふざけて怒ったふりをし、二人は顔を見合わせて、どちらからともなく笑った。
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