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海棠花【ヘダンファ】~遠い約束~
第6章 兄の心
梨花の指摘に、ソルグクの陽に灼けた精悍な貌が朱に染まった。
「ば、馬鹿野郎。俺にそんな女ができるわけねえだろ」
「じゃあ、どうして心ここにあらずなのよ?」
からかうように言ってやると、兄は急にむっつりと黙り込む。
「それとも、私の顔に何かついてる?」
ふざけて言いながらも、十日ほど前にも似たような会話を南斗とした記憶が甦った。
どこにいても南斗のことを思い出し、考えてしまう。今、梨花の心は南斗で一杯だ。
当然、逢いたいと思う気持ちはあったけれど、朝、洗面用の水を運ぶとき以外、南斗と顔を合わせる機会は殆どないと言って良い。
それでも、時折、二人で示し合わせて、ひそかな逢瀬を続けていた。二人が待ち合わせるのは大抵、奥庭の崩れかけた物置小屋である。その場所は梨花が下男のソヌに乱暴されかけたことを考えれば、皮肉といえば皮肉ではあった。
「ば、馬鹿野郎。俺にそんな女ができるわけねえだろ」
「じゃあ、どうして心ここにあらずなのよ?」
からかうように言ってやると、兄は急にむっつりと黙り込む。
「それとも、私の顔に何かついてる?」
ふざけて言いながらも、十日ほど前にも似たような会話を南斗とした記憶が甦った。
どこにいても南斗のことを思い出し、考えてしまう。今、梨花の心は南斗で一杯だ。
当然、逢いたいと思う気持ちはあったけれど、朝、洗面用の水を運ぶとき以外、南斗と顔を合わせる機会は殆どないと言って良い。
それでも、時折、二人で示し合わせて、ひそかな逢瀬を続けていた。二人が待ち合わせるのは大抵、奥庭の崩れかけた物置小屋である。その場所は梨花が下男のソヌに乱暴されかけたことを考えれば、皮肉といえば皮肉ではあった。