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海棠花【ヘダンファ】~遠い約束~
第6章 兄の心
「そうね、ちゃんと憶えてるわ。でも、あの時、お兄ちゃんは、若さまが両班の坊ちゃんだから、私のような貧乏人は相手にしないだろうと言ったはずよ? それは、たった今、お兄ちゃん自身が私に告げた言葉―若さまが本気なら、駆け落ちだって何だって結婚そのものには反対しないという内容とは矛盾するけれど」
 ソルグクがまた、唇を舐めた。
「海棠。俺のあのときの言葉をよおく思い出してくれ。あの時、俺はこうも言ったはずだ」
―俺は、あいつを見たときから、胸騒ぎがしてならねえんだ。
 ソルグクは、その部分だけをもう一度、梨花の前で繰り返す。
「お前には悪いが、俺はどうも、尹家の若さまは虫が好かねえ。理由を言えと言われて、実際、はきとした理由はないんだ。俺が見ても、女を騙すような性悪男でもなさそうだし、よく見かけるような金持ちの放蕩息子と違って、あの若さまについて悪い評判は町でも聞いたことがねえ。
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