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海棠花【ヘダンファ】~遠い約束~
第8章 終焉
 その威徳が何を思ったか、北斗の帰国祝いの宴を催したいと言い出し、さる妓房の一室で祝宴の席を設けた。
 幾ら不仲の相手とはいえども、父は招待された宴に出向かぬほどの礼儀知らずではない。
―恐らく、何か魂胆があるのであろうよ。
 父は出かける前、肩を竦めて言っていた。
 威徳は、身の丈はごく平均といったところだが、腹はでっぷりと出て額は禿げ上がり、残り少なくなった頭髪をかなり無理して引っ詰めている。貧相な髷は帽子の中に隠れていて見えないのが残念だ。
 額はてらてらと脂ぎって光り、唇は分厚く、いかにも好き者の顔相をしている。
 威徳の隣には、この翠(チェイ)月(ウォル)楼(ヌ )一の売れっ妓香月(ヒヤンオル)が侍っている。けして笑わない氷の女、それが傾城(ギヨンソン)香月についての風評だ。国王が後宮に迎えたいと望んだほどの美貌を誇り、また、その朝鮮一の男を見事にふった心意気が彼女の名を天下にますます轟かせていた。
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