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君が泣かないためならば
第6章 て
5時ピッタリにそっと部を出る。
「あの店」と言われたそこは、1年前まで足しげく通った場所で
そこは啓にも紗江子ちゃんにも言っていない
私と重田さんの思い出のお店で。

私たちはいつもその店で会っていた。
元は、重田さんのなじみの店で
ここに連れて来てもらって、女将さんに私を紹介してくれた時は嬉しかったっけ。

私は、会社を出てからも重田さんに会いたくなくて、そんな勇気が持てなくて
約束のお店に行くのを身体と心が拒否して
あらゆるところで時間をつぶした。

約束の7時を30分ほど回った時、
これ以上は伸ばせないと、やっと店に向かって
ドアを開けると女将さんが「明日香ちゃん?」と
私を懐かしそうに呼んだ。

「重田クン奥にいるわよ」

そこは、週に何回も2人で夕飯を食べた場所で
1年前と同じ席に重田さんは座っていた。

「明日香」

私を見つけると、1年前と同じ笑顔で
まくったYシャツの右手を挙げる。

ああ・・・この人が、好きだった。

ついこの前まで、忘れられなくて
恋焦がれていた人がそこにいた。

席に着いて、ビールを頼む。

「私と、森川さんにもう関わらないで」
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