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第1章 別れと始まり

泣いてしまった―――…
男の前で。
いや、違うか。
上司の前で、だ。
あぁ―…、上司だけど、男でもあるか。
どっちにしても初めての事で、思い返すと落ち着かない。

ベッドに横になりながら、しっくり来ないこの気持ちをもて余して、何度も寝返りをうつ。
帰宅してすぐにお風呂に入って、寝る準備を整えた頃にはすっかり酔いは醒めていて、滝本さんの前で泣いてしまった事実が私をそわそわさせていた。

『そんな顔をされると俺は辛い。』

無理やり作った笑顔を見せて、あんな事を言われたのは初めてだった。
過去の男たちは、大抵、鵜呑みにして調子良く笑うか、ホッとしたような顔をしていたのに。

私が無理していると、辛いの…？

でも、泣かせたくせに笑っていたしな。
からかわれたんだよね？
私が泣く姿を見てみたかった、とか？

泣くんじゃなかったかな…

人前で泣いただけでこんなに動揺するなんて…
やっぱり私には向いていない。
可愛く、汐らしく、泣けないし。
なかった事にしたいくらいだし。

明日からは私らしく仕事に励もう。
泣いたり、落ち込んだりする暇がないくらい、仕事をしよう。

大丈夫。
滝本さんは言いふらしたりしない。
うん、そうしよう。

そんな事をグルグルと考えながら、私は眠りについていた。