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素直になれなくて
第9章 愛の行方
「悠里ちゃん、もう上がる時間よ?」
「あ、はい。」
店長の門倉は、悠里に声をかける。悠里は、最後のお客さんにお惣菜を渡しレジを閉めると、奥のロッカーへ入って行く。
「悠里ちゃん、また痩せた?ちゃんと食べてるの?」
「食べてますよ。モリモリと。」
悠里はニッコリと笑った。
「悠里ちゃんに来てもらう様になって、うちの店、売り上げ上がったから助かってるんよ。」
店長の門倉は、余った惣菜をパックに入れて悠里に渡す。
「これもモリモリ食べなさい。体が資本なんだから?」
「いつもすみません。」
悠里は、頭を下げると店を後にし、自転車を走らせた。
「遅れちゃう、急がなきゃ。」
悠里は、自転車を漕ぐ足を少し早めた。
浅井は、飯島社長を訪ねていた。
「浅井くん、本当に久しぶりだね。」
「はい、ご無沙汰しています。」
浅井は、逸る気持ちを抑え、出されたお茶を一口飲んだ。
「飯島社長、いつ、引退なさったんですか?」
「あの事件の後、すぐだったかな。本当は店自体を畳もうと思ったんだが、職人達に止められてね。秘書をやっていた中林に後を譲った。社名も変えてね。」
浅井は、言葉がなかった。
この人もあの事件の被害者なんだ。
長年続いた店を、身内に継がせられなかったのは、きっと悔いが残っただろう。
「そうそう、山城さんの話だったね。私もあまり外へは出ないんだが、この前夕方に公園で見かけてね。雰囲気が変わっていたから、声を掛けようか迷ってしまって。」
浅井は、黙って社長の話を聞いた。
「その、姿を晦ましたのは、訳があったのだと思うよ。だからそっとしておくのも……」
「無理です。放ってはおけません。」
飯島社長の言葉を遮って言った浅井の言葉に、社長は優しく微笑んだ。
「覚悟を決めてるんだね。」
「はい。」
飯島社長は、地図を書いた紙を浅井に渡した。
「以前見かけたのは16時過ぎ頃だったから、今から行けば会えるかもしれないね。」
「ありがとうございます。」
浅井は紙を手にすると、飯島社長に頭を下げた。
「君達には、本当に迷惑をかけた。すまなかった。」
「社長の所為ではありません。あの事件は誰の所為でも……」
そう言って、浅井は頭を下げ、社長の家を後にした。
「あ、はい。」
店長の門倉は、悠里に声をかける。悠里は、最後のお客さんにお惣菜を渡しレジを閉めると、奥のロッカーへ入って行く。
「悠里ちゃん、また痩せた?ちゃんと食べてるの?」
「食べてますよ。モリモリと。」
悠里はニッコリと笑った。
「悠里ちゃんに来てもらう様になって、うちの店、売り上げ上がったから助かってるんよ。」
店長の門倉は、余った惣菜をパックに入れて悠里に渡す。
「これもモリモリ食べなさい。体が資本なんだから?」
「いつもすみません。」
悠里は、頭を下げると店を後にし、自転車を走らせた。
「遅れちゃう、急がなきゃ。」
悠里は、自転車を漕ぐ足を少し早めた。
浅井は、飯島社長を訪ねていた。
「浅井くん、本当に久しぶりだね。」
「はい、ご無沙汰しています。」
浅井は、逸る気持ちを抑え、出されたお茶を一口飲んだ。
「飯島社長、いつ、引退なさったんですか?」
「あの事件の後、すぐだったかな。本当は店自体を畳もうと思ったんだが、職人達に止められてね。秘書をやっていた中林に後を譲った。社名も変えてね。」
浅井は、言葉がなかった。
この人もあの事件の被害者なんだ。
長年続いた店を、身内に継がせられなかったのは、きっと悔いが残っただろう。
「そうそう、山城さんの話だったね。私もあまり外へは出ないんだが、この前夕方に公園で見かけてね。雰囲気が変わっていたから、声を掛けようか迷ってしまって。」
浅井は、黙って社長の話を聞いた。
「その、姿を晦ましたのは、訳があったのだと思うよ。だからそっとしておくのも……」
「無理です。放ってはおけません。」
飯島社長の言葉を遮って言った浅井の言葉に、社長は優しく微笑んだ。
「覚悟を決めてるんだね。」
「はい。」
飯島社長は、地図を書いた紙を浅井に渡した。
「以前見かけたのは16時過ぎ頃だったから、今から行けば会えるかもしれないね。」
「ありがとうございます。」
浅井は紙を手にすると、飯島社長に頭を下げた。
「君達には、本当に迷惑をかけた。すまなかった。」
「社長の所為ではありません。あの事件は誰の所為でも……」
そう言って、浅井は頭を下げ、社長の家を後にした。